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東京地方裁判所 平成12年(ワ)23184号 判決 2000年12月26日

原告

フェデレイション・インターナショナル・デ・フットボール・アソシエーション

右代表者総務担当

【A】

右代表者財務担当

【B】

右原告訴訟代理人弁護士

黒田健二

黒須克佳

田中庄司

被告

テイソン投資貿易有限会社

右代表者代表取締役

【C】

【D】

主文

一  被告は、別紙標章目録A、B、D、E又はF記載の標章を付した時計を販売又は頒布してはならない。

二  被告は、別紙標章目録G又はH記載の標章を付した財布を販売又は頒布してはならない。

三  被告は、別紙標章目録I記載の標章を付したベルトを販売又は頒布してはならない。

四  被告は、別紙標章目録K記載の標章を付したキーホルダーを販売又は頒布してはならない。

五  被告は、別紙標章目録D記載の標章を付した時計を輸入してはならない。

六  被告は、別紙標章目録A、B、D、E又はF記載の標章を付した時計を販売又は販売のために展示してはならない。

七  被告は、別紙標章目録G又はH記載の標章を付した財布を販売又は販売のために展示してはならない。

八  被告は、別紙標章目録I及びJ記載の標章を付したベルトを販売又は販売のために展示してはならない。

九  被告は、別紙標章目録K記載の標章を付したキーホルダーを販売又は販売のために展示してはならない。

一〇  訴訟費用は、被告の負担とする。

一一  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  原告の請求

主文と同旨

二  原告は、別紙「請求の原因」記載のとおり、請求の原因を述べた。

被告は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しない。したがって、被告において、原告が主張した請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したものとみなす。

三  右によれば、原告の請求はいずれも理由がある。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 村越啓悦 裁判官 和久田道雄)

(別紙) 請 求 の 原 因

一 前提となる事実

1 原告について

(一) 原告は、スイスに本拠を置く国際サッカー連盟、フェデレイション・インターナショナル・デ・フットボール・アソシエーション(Federation internationale de Football Association , 通称"FIFA")である。

(二) 原告は、サッカーの振興、各国の協会と選手間の親善の促進等を目的として一九〇四年(明治三七年)に設立され、現在、二〇三の国と地域が原告に加盟している。

原告は、「FIFAワールドカップサッカー大会」、「世界ユース選手権大会」等の国際的なサッカー競技会を直接運営している。原告が主催する「WORLD CUP/ワールドカップ」は、単一のスポーツイベントとしては世界最大規模のスポーツ大会の名称であり、一九三〇年(昭和五年)を第一回とし、四年に一度、欧州と米州で交互に開かれてきた。同大会は、二年がかりで世界各地で予選が行われ、予選を勝ち抜いた代表国のプロ選手らの最高レベルの試合が繰り広げられ、有力企業が競ってスポンサーになり、莫大な資金が動き、世界中が熱狂するビッグイベントである。

(三) 原告は、一九九六年(平成八年)五月、理事会において二〇〇二年の「FIFAワールドカップサッカー大会」を、日本と大韓民国(以下「韓国」という。)で共同開催することを決定した。この大会の正式名称は「2002 FIFA World Cup Korea/Japan」である。

2 被告について

(一) 被告は、貴金属、衣料雑貨品、日用品雑貨の輸出入及び販売等を業とする会社である。

(二) 被告は、別紙侵害品目録1ー1及び1ー2記載の時計及びそのケース(以下それぞれ「本件時計」、「本件時計ケース」という。)、別紙侵害品目録2記載の財布及びそのパッケージ(以下それぞれ「本件財布」、「本件財布パッケージ」という。)、別紙侵害品目録3記載のベルト及びそのパッケージ(以下それぞれ「本件ベルト」、「本件ベルトパッケージ」という。)、別紙侵害品目録4記載のキーホルダー(以下「本件キーホルダー」という。これらを総称して「各被告商品」という。)を韓国の貿易商社ジャパンラインから、日本国内で販売する目的で輸入し、各被告商品をセンコー商事株式会社(以下「センコー商事」という。)に販売している。センコー商事は、クレリッチ株式会社(以下「クレリッチ社」という。)に各被告商品を販売している。

(三) 「本件時計」、「本件時計ケース」には、別紙標章目録AないしF記載の標章(以下「被告標章AないしF」という。)が付されている。

「本件財布」、「本件財布パッケージ」には、別紙標章目録G及びH記載の標章(以下「被告標章G及びH」という。)が付されている。

「本件ベルト」、「本件ベルトパッケージ」には、別紙標章目録I及びJ記載の標章(以下「被告標章I及びJ」という。)が付されている。

「本件キーホルダー」には、別紙標章目録Kの標章(以下「被告標章K」という。)が付されている。

二 商標権侵害に基づく請求について

1 原告の商標権

(一) 侵害品目録1ー1及び1ー2記載の時計及びそのケースについて

原告は、別紙商標権目録一ないし五記載の商標権(以下、各権利を「原告商標権一」ないし「原告商標権五」という。)を有している。

(二) 侵害品目録2記載の財布及びそのパッケージについて

原告は、別紙商標権目録六ないし八記載の商標権(以下、各権利を「原告商標権六」ないし「原告商標権八」という。)を有している。

(三) 侵害品目録3記載のベルト及びそのパッケージについて

原告は、別紙商標権目録九ないし一一記載の商標権(以下、各権利を「原告商標権九」ないし「原告商標権一一」という。)を有している。

(四) 侵害品目録4記載のキーホルダーについて

原告は、別紙商標権目録一二記載の商標権(以下、「原告商標権一二」という。)を有している。

(五) 原告商標

(1) 右原告商標権一、六、九の商標(別紙商標目録1ー1、1ー2、1ー3)を以下「原告商標1」(「FIFA WORLD CUP」)という。

(2) 右原告商標権二、七、一〇の商標(別紙商標目録2ー1、2ー2、2ー3)を以下「原告商標2」(「WORLD CUP JAPAN 200 2」)という。

(3) 右原告商標権三、四の商標(別紙商標目録3ー1、3ー2)を以下「原告商標3」(「FIFA トロフィー」<図形>)という。

(4) 右原告商標権五、八、一一、一二の商標(別紙商標目録4ー1、4ー2、4ー3、4ー4)を以下「原告商標4」(「WORLD CUP SOCCER/ワールドカップサッカー」)という。

(5) 原告商標権一ないし一二を総称して「原告商標権」という。また、原告商標1ないし4を総称して「原告商標」という。

2 被告標章と原告商標との同一性ないし類似性

(一) 原告商標1の構成

原告商標1は「FIFA WORLD CUP」の欧文文字を横書きにしたものからなる。

(1) 本件時計について

被告標章Aは「WORLD CUP」の欧文文字を、サッカースタジアムを模した(広告によれば、「韓国のジェルシムメインスタジアムの模型をデザイン」したとされる。)半円状の線に沿う形で横書きにしたものからなる。

原告商標1と被告標章Aを対比すれば「WORLD CUP」の称呼、外観の点で共通する。しかも文字の記載された文字盤のデザインがサッカー場の形であり、また、文字盤上方に「2002」の文字が付されており、二〇〇二年に日韓共催で、「FIFAワールドカップサッカー大会」が開催されることからすれば、被告標章Aは、原告の主催する「FIFAワールドカップサッカー大会」を想起させるものであり、両者は観念の点で共通し、類似している。

(2) 本件財布について

本件財布パッケージに印刷されている被告標章Hは「2002」の数字を横書きにし、その下に「WORLD CUP」の欧文文字を横書きにし、さらにその下に「KOREA JAPAN」の欧文文字を横書きにしたものからなる。

原告商標1と被告標章Hを対比すれば「WORLD CUP」の称呼、外観の点で共通する。また、「2002」、「KOREA JAPAN」が付された「WORLD CUP」という表記は、二〇〇二年に韓国(KOREA)、日本(JAPAN)の共催で「FIFAワールドカップサッカー大会」が開催されることからすれば、見る者をして、必然的に原告の主催する二〇〇二年の「FIFAワールドカップサッカー大会」を想起させるものであり、両者は観念の点でも共通し、類似している。

本件財布上に付されている被告標章Gは「2002」の数字を横書きにし、その下に「WORLD CUP」、「KOREA JAPAN」の欧文文字を横書きにしたものからなる。

原告商標1と被告標章Gを対比すれば、右で述べたように、「WORLD CUP」と称呼、外観、観念の点で共通し、類似している。

(3) 本件ベルトについて

本件ベルトのバックル上に付されている被告標章Iは「2002」の数字を横書きにし、その下に「WORLD CUP」、「KOREA JAPAN」の欧文文字を横書きにしたものからなる。

原告商標2と被告標章Iを対比すれば、前記(2)で述べたように「2002」、「WORLD CUP」、「JAPAN」と称呼、外観さらに観念の点で共通し、類似している。

(三) 原告商標3の構成

原告商標3は、地球をかたどった球体物と、右球体物を持ち上げつつ支える競技者をかたどったモチーフ、その下の台座を主要部として構成される。

他方、本件時計に付されている被告標章Dは、原告商標3と全く同様に、地球をかたどった球体物と、右球体物を持ち上げつつ支える競技者をかたどったモチーフ、その下の台座を主要部として構成される。

原告商標3と被告標章Dを対比すれば、「地球をかたどった球体物」、「支えるモチーフ」、「台座」の点で共通し、全体としての形状も類似し、需要者に原告商標を想起させるものであり、類似している。

(四) 原告商標4の構成

原告商標4は「WORLD CUP SOCCER」の欧文文字を横書きにし、その下に「ワールドカップサッカー」のカタカナで横書きしたものからなる。

(1) 本件時計について

被告標章Aは「WORLD CUP」の欧文文字を、サッカースタジアムを模した(広告によれば、「韓国のジェルシムメインスタジアムの模型をデザイン」したとされる。)半円状の線に沿う形で横書きにしたものからなる。

原告商標4と被告標章Aを対比すれば、欧文文字、カタカナの点も含めて「WORLD CUP」の称呼が共通し、欧文部分についてはさらに外観の点で共通する。加えて、文字の記載された文字盤のデザインがサッカー場の形でありサッカーを想起させ、またこれが文字盤上方の「2002」の文字や、時計バンド部分に付されたトロフィーのモチーフ等とあいまって、全体として原告の主催する「FIFAワールドカップサッカー大会」を想起させるものであり、観念の点で共通し、類似している。

(2) 本件財布について

本件財布パッケージに印刷されている被告標章Hは、「2002」の数字を横書きにし、その下に「WORLD CUP」の欧文文字を横書きにし、さらにその下に「KOREA JAPAN」の欧文文字を横書きにしたものからなる。

原告商標4と被告標章Hを対比すれば、「WORLD CUP」と、称呼、外観の点で共通し、右(1)で述べたように観念の点でも共通し、類似している。

本件財布上に付されている被告標章Gは、「2002」の数字を横書きにし、その下に「WORLD CUP」、「KOREA JAPAN」の欧文文字を横書きにしたものからなる。

原告商標4と被告標章Gを対比すれば、「WORLD CUP」と、称呼、外観の点で共通し、これに被告標章中の「2002」、「KOREA JAPAN」の表記をもあわせて全体的に観察すると、需要者に「二〇〇二年に原告が日本と韓国で開催するFIFAワールドカップサッカー大会」という観念を与えるものであり、類似している。

(3) 本件ベルトについて

本件ベルトのバックル上に付されている被告標章Iは、「2002」の数字を横書きにし、その下に「WORLD CUP」、「KOREA JAPAN」の欧文文字を横書きにしたものからなる。

原告商標4と被告標章Iを対比すれば、「2002」、「WORLD CUP」と、称呼、外観の点で共通し、右(2)で述べたように観念の点でも共通し、類似している。

(4) 本件キーホルダーについて

本件キーホルダーの銀色面側外輪上半円部の被告標章Kは、「2002 17th」と数字及び欧文字を横書きにし、これに続けて「WORLDCUP」の欧文文字を横書きにし、同外輪下半円部に「KOREA・JAPAN」と欧文文字及び記号を横書きにしたものからなる。

原告商標4と被告標章Kとを対比すれば「WORLD CUP」の欧文文字横書き部分において、称呼、外観が類似している。さらに、右被告標章Kはサッカーボールを形どった球形と一体をなして表示され、右球形上には「2002」の文字及び、原告が著作権を有する「フェアプレーマーク」が表示されている。これに被告標章中の「2002」、「17th」、「KOREA JAPAN」の表記をもあわせて全体的に観察すると、被告標章Kは、一般需要者に「二〇〇二年に原告が日本と韓国で開催する第一七回FIFAワールドカップサッカー大会」という観念を与えるものであり、観念の点でも類似している。

3 各被告商品と原告商標権の指定商品の同一性

(一) 本件時計について

被告標章A、B、DないしFの使用されている被告商品は時計であり、これは原告商標権一ないし五の指定商品に含まれる。

(二) 本件財布について

被告標章G、Hの使用されている被告商品は財布であり、これは原告商標権六ないし八の指定商品に含まれる。なお、財布は「袋物」に含まれる。

(三) 本件ベルトについて

被告標章Iの使用されている被告商品はベルトであり、これは原告商標権九ないし一一の指定商品に含まれる。

(四) 本件キーホルダーについて

被告標章Kの使用されている被告商品はキーホルダーであり、これは原告商標権一二の指定商品に含まれる。

4 以上のとおり、被告による被告標章A、B、DないしI及びKの使用は、原告商標権を侵害するものである。

よって、原告は商標法三六条一項に基づき、

(一) 別紙標章目録A、B、D、E又はF記載の標章を付した時計

(二) 別紙標章目録G又はH記載の標章を付した財布

(三) 別紙標章目録I記載の標章を付したベルト

(四) 別紙標章目録K記載の標章を付したキーホルダー

の販売及び頒布の差止めを求める。

三 著作権侵害に基づく請求について

1 原告の著作権

原告は、一九三〇年以降、「FIFAワールドカップサッカー大会」の主催者である。原告は第一〇回「FIFAワールドカップサッカー大会」を主催するに当たり、新しい大会トロフィーを作成すべく、数々のデザインを募集し、これに応募したイタリア人彫刻家【E】が一九七〇年初頭に作成した彫刻物(別紙著作物目録一記載の著作物、以下「FIFAトロフィー<著作物>」という)を、大会トロフィーとして採用した。

FIFAトロフィーの作者である【E】は、一九七一年一一月一一日にFIFAトロフィーの著作権を原告に譲渡した。右著作権の譲渡の事実は、後記パリ大審裁判所の判決において認められている。

原告は、一九七四年の第一〇回「FIFAワールドカップサッカー大会」から、FIFAトロフィーを大会優勝国に贈る正式なトロフィーとして採用し、それ以後の原告の活動によってFIFAトロフィーは全世界の人々に原告の主催する「FIFAワールドカップサッカー大会」のシンボルマークとして広く認知されるに至っている。

2 著作物性

FIFAトロフィーは、イタリア人彫刻家【E】の芸術活動により創作された美術的文化的精神活動の産物であり、著作物に該当することは明らかである。

台座から伸びるラインは螺旋を描きながら上方に向かい、地球、すなわち全世界を受け止めようとするものである。このラインは二人の競技者の肉体によって表現され、そのダイナミックな躍動感は、FIFAトロフィーを見る者に極めて強い印象を与える。そして、この二人の競技者が両腕を高く上げ地球を受け止めるその姿は、競技に勝利した歓喜の姿をも意味し、まさに「FIFAワールドカップサッカー大会」を象徴するものとなっている。

なお、フランスにおいては、原告が提訴したFIFAトロフィーに関する著作権侵害訴訟につき、二〇〇〇年二月一六日パリ大審裁判所はFIFAトロフィーの著作物性を肯定し著作権侵害を認める旨の判決をしている。

3 被告は、日本国内で頒布する目的で、FIFAトロフィーの無断複製行為(被告標章D)によって作成された本件時計を輸入しており、原告の複製権を侵害する(著作権法一一三条一項一号、二一条)。

4 よって、原告は、FIFAトロフィーの著作権に基づき、別紙標章目録D(FIFAトロフィー)記載の標章を付した時計の輸入の差止めを求める。

四 不正競争防止法に基づく請求について

1 原告による商品等表示

原告は、ISLマーケティングAG(以下「ISL社」という。)に対して、「FIFAワールドカップサッカー大会」に関するエンブレム、マスコット及びFIFAトロフィー等の商標権、著作権のライセンシングについて、

包括的に管理契約を結んでいる。また、我が国においては、株式会社電通(以下「電通」という。)が、日本国内のライセンシングに関する代理契約をISL社との間で締結している。当該契約により、電通は日本国内の各企業に対して、二〇〇二年「FIFAワールドカップサッカー大会」のエンブレムやマスコット、FIFAトロフィー、「FIFA WORLD CUP」等の商標権、著作権を利用した関連グッズ、キャラクター商品のライセンス事業を独占的に実施している。

このように原告はISL社、電通を通じて二〇〇二年「FIFAワールド カップサッカー大会」に関係する表示のライセンシングを完全にコントロールし、これらを付した商品は原告により許諾された信頼に足りる正当な特定の業者グループ(以下「正当な業者グループ」という。)によってのみ、販売することが許されている。

かように、原告はISL社、電通を介して、原告所有の標章使用ライセンス事業において、右標章使用による商品の出所識別機能、品質保証機能、顧客吸引力維持機能を維持することに努めて今日に至っている。

2 不正競争防止法二条一項二号の「他人」

不正競争防止法二条一項二号の「他人」には、特定の表示に関する商品化契約によって結束した同表示の使用許諾者、使用権者及び再使用権者のグループのように、同表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価できるようなグループも含まれる。

本件では、原告はISL社、電通を介して、日本国内に二〇〇二年「FIFAワールドカップサッカー大会」のマーケティング事業におけるエンブレム、マスコット及びFIFAトロフィーのライセンシング事業を展開し、原則的に一業種一社によるライセンス契約を締結し、原告に関する特定の表示につき商品化事業を営む正当な業者グループを形成している。

3 著名性

(一) FIFAトロフィーについて

原告は一九七四年の第一〇回「FIFAワールドカップサッカー大会」からFIFAトロフィーを大会優勝国に贈る正式なトロフィーとして採用し、それ以降の原告の活動により全世界の人々に原告の主催する「FIFAワールドカップサッカー大会」のシンボルマークとして広く認知されるに至っている。

我が国においても、一九九八年のフランス大会に日本代表チームが出場したこと、二〇〇二年に日本・韓国共催による「FIFAワールドカップサッカー大会」が迫るにつれサッカー熱が高まり、「FIFAワールドカップサッカー大会」の名称とともに、FIFAトロフィーの外観も、広く国民に知れ渡るに至っている。

右のような経緯により、FIFAトロフィーの標章は、原告の主宰する商品化事業グループに属する企業の販売する商品を示す表示として著名となってい る。

(二) 「FIFA WORLD CUP/FIFAワールドカップ」につい て

原告は、一九〇四年(明治三七年)に設立され、「FIFAワールドカップサッカー大会」、「世界ユース選手権大会」等の国際的なサッカー競技を直接運営している。原告が主催する「WORLD CUP/ワールドカップ」は、単一のスポーツイベントとしては世界最大規模のスポーツ大会の名称であり、一九三〇年(昭和五年)を第一回とし、四年に一度開かれてきた。そして、一九九四年のアメリカ大会、一九九八年フランス大会、そして二〇〇二年の日本・韓国共催による大会開催決定によって、我が国においても「FIFA WORLD CUP/FIFAワールドカップ」の存在自体が極めて広範囲の人々に認知されるに至っている。

特に一九九八年フランス大会では、日本代表チームが史上初めて予選リーグを突破し、本大会出場を決めたことにより、日本国内においても数多くの関連グッズ、公式商品が発売された。これら関連グッズ等にはFIFAトロフィーの他にも「FIFA WORLD CUP/FIFAワールドカップ」、「WORLD CUP/ワールドカップ」といった表記が数多くされてきた。

右のような経緯により、「FIFA WORLD CUP」又は「FIFAワールドカップ」の名称は、原告の主宰する商品化事業グループに属する企業の販売する商品を示す表示として著名となっている。

4 被告による商品等表示の使用

(一) FIFAトロフィーについて

被告は、本件被告標章Dを付した本件時計を日本国内で販売する目的で韓国から輸入し、販売又は販売のために展示している。

(二) 「WORLD CUP」について

被告は、本件被告標章A、B、E、Fを付した本件時計、本件被告標章G、Hを付した本件財布、本件被告標章I、Jを付した本件ベルト、本件被告標章Kを付した本件キーホルダーを日本国内で販売する目的で韓国から輸入し、販売又は販売のために展示している。

5 類似性

(一) FIFAトロフィーについて

一九九八年のフランス大会への日本代表チームの本大会出場、二〇〇二年「FIFAワールドカップサッカー大会」の日本・韓国共同開催決定等の要因により、我が国においても「FIFAワールドカップサッカー大会」に対する国民の関心が一気に高まり、大会優勝国に贈られるFIFAトロフィーへの認知度が急速に高まった。そして、現在、二〇〇二年の大会まで残り一年半余りとなっている。

かように、サッカー及び二〇〇二年「FIFAワールドカップサッカー大会」への国民の関心が高まる中、本件時計が輸入、販売されている。本件時計には、時計文字盤上にサッカースタジアムを模した図が描かれ、その上に「2002」、「WORLD CUP」という文字が描かれているのであり、需要者が本件時計全体を認知しつつ、被告標章Dを見ればそれがいわゆるFIFAトロフィーであり、本件時計が原告からライセンスを受けて商品化されたものであるとの強い印象を持つことは疑いのないところである。したがって、被告標章Dは、原告及び原告の許諾を受けた正当な業者グループの付すFIFAトロフィーの標章と同一又は類似のものである。

(二) 「FIFA WORLD CUP」について

(1) 被告標章A、B、EないしKは、商標権侵害に基づく請求の項で述べた通り、いずれも「WORLD CUP」という欧文文字をその構成要素としている(被告標章Kについては「WORLDCUP」となっており、一語として表記しているが、称呼、外観、観念上、「WORLD CUP」と同一のものということができる。)。

(2) しかして、現在の我が国における需要者の認識を前提にすると、「WORLD CUP」の文字からは、原告が主催する「FIFAワールドカップサッカー大会」、「FIFA WORLD CUP」を容易に想起し得るものである。そうすると、需要者が被告標章A、B、EないしKの付された本件時計、本件時計ケース、本件財布、本件財布パッケージ、本件ベルト、本件ベルトパッケージ、本件キーホルダーを見れば、これら各被告商品が原告からライセンスを受けて商品化されたものであるとの強い印象を持つことは疑いのないところである。したがって、被告標章A、B、EないしKは、正当な業者グループの付す「FIFA WORLD CUP/FIFAワールドカップ」と同一又は類似のものである。

(3) さらに、各被告商品には「WORLD CUP」の表示の他に、「FIFA WORLD CUP」の想起を容易にし、「FIFA WORLD CUP」という著名表示に便乗せんとする不正な意図に基づく表示が付加されている。

ア すなわち、被告標章B、Fには「2002」の数字が付され、被告標章Bについては、その上方部にサッカーボールが描かれている。

イ 被告標章Eには「2002」、「KOREA JAPAN」の数字及び欧文文字が付されている。

ウ 被告標章G、Iには「2002」、「KOREAーJAPAN」の数字及び欧文文字が付されている。そして、右表記はサッカー場を型取った図及びサッカーボールの図とともに表示されている。

エ 被告標章H、Jには「2002」、「KOREA/JAPAN」の数字及び欧文文字が付されている。

オ 被告標章Kには「2002 17th」、「KOREA・JAPAN」の数字、欧文文字、記号が付されている。

そして、各被告商品について、需要者は、右アないしオの各付加要素も含めて同時に認識するのであり、これらは「原告が二〇〇二年に日本・韓国で開催するFIFA WORLD CUP」という観念の想起を容易にする方向で作用するものである。

(4) かような具体的事情も考慮するならば、本件の如き不正な意図の明確な行為については、類似性の要件も当然に肯定すべきである。

6 営業上の利益の侵害

原告は、商品等へのFIFAトロフィー、又は「FIFA WORLD CUP」の表示(以下「原告表示」という。)の付与に関して、ISL社、電通を介し、信頼のおける業者に対してのみライセンスを与えてきた。かかる原告の活動により、原告は、原告表示の正当な業者グループを形成し、原告表示のある商品は、「FIFA公式」、「FIFA公認」という表記の有無にかかわらず、原告からライセンスを受けた業者により製造販売されている商品であるとの認識を需要者に与えるように配慮してきた。

しかし、被告のように無断で原告表示を使用する者が現れると、原告は右のごとき正当な業者グループを管理統制することが事実上困難になる。

また、原告は一定の品質を備えた商品にだけ原告表示を付することによって、当該商品の品質管理に十分に注意を払ってきている。しかし、各被告商品のような模倣品に対しては、そのような管理は不可能であり、この意味で、原告表示の品質保証機能が害されるおそれがある。

さらに、原告表示は、原告が主催する「FIFAワールドカップサッカー大会」のシンボルであり、トップレベルのサッカーの持つ軽やかでダイナミックなイメージを需要者に連想せしめるものである。しかるに、被告のように原告表示と同一ないし類似の表示を無断で使用する者が出現すれば、原告表示の価値が相対的に弱められ、それだけ顧客吸引力が弱まる。

以上のように、被告の不正競争防止法二条一項二号に違反する行為によって、原告が、原告表示を特定の業者に限定して使用させることによって維持発展させてきた原告表示による商品の出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力の各機能が害され、又は害されるおそれがあるから、原告は同法三条にいう「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」に該当する。

7 よって、原告は、不正競争防止法二条一項二号、三条一項に基づき

(一) 別紙標章目録A、B、D、E又はFの標章を付した時計

(二) 別紙標章目録G又はHの標章を付した財布

(三) 別紙標章目録I又はJの標章を付したベルト

(四) 別紙標章目録Kの標章を付したキーホルダー

を販売又は販売のために展示することの差止めを求める。

標章目録K標章目録K写真 標章目録J標章目録J写真

標章目録I標章目録I写真 標章目録H標章目録H写真

標章目録G標章目録G写真 標章目録F標章目録F写真

標章目録E標章目録E写真 標章目録D標章目録D写真

標章目録B標章目録B写真 標章目録A標章目録A写真

侵害品目録4 侵害品目録3 侵害品目録2

侵害品目録1-2 侵害品目録1-1

商標権目録一 商標権目録二 商標権目録三

商標権目録四 商標権目録五 商標権目録六

商標権目録七 商標権目録八 商標権目録九

商標権目録一〇 商標権目録一一 商標権目録一二

著作物目録一

別紙

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